積みゲー1
地位向上編
暗いです。真っ暗です。
何がどうなったか分かりません。
たしかボドゲ棚が倒れてきたような・・
そこで私の意識は覚醒した。
私は34歳、普通に憧れる普通な人生の男。
妻に言われてノイシュヴァンシュタイン城というボドゲを我が家のボドゲ棚から抜き取ろうとしたら溢れるボドゲ達が崩れてきて下敷きになり、たまたま放置していたドリルが刺さったことまでは覚えています。
はい。いつも通り、ありふれた日常です。慌てる要素なんて皆無です。
それにしても暗いなぁ。あれから何時間経ったんだろう。仕事行かなきゃ。あ、猫にご飯をあげなきゃ。
ん。身体が動かない。というか手足、頭の感覚が全く無い。いやいや、ボドゲ達の下敷きになったぐらいでそんな大袈裟な。えっと、ドリルの刺さった場所が悪かったのか。どうなっているんだ。その時、
カチャリ
とドアの開く音がした。少しだけ視界が明るくなる。いや、正確には目の感覚もないんですけど。
「どこだったかなー、あったあった、やっぱり最初はハゲタカの餌食だよねー」
誰だ。聞いたことのない男の声。すぐ近くをガサガサする音、何かが乗っけられた音がする。
「随分と増えたなぁ、もっとボドゲ遊びたいのになぁ、せっかくボドゲ買っても遊びきれないんだよね」
新しい声。おまえは誰だ。ここはどこだ。声が出ない。教えてくれ。
「ボドゲって開封するまでが楽しいよね、開封で7割っていうか」
うんうん。分かる。それには同意。だから君達は誰なんだ。私はどうなったんだ。
「あっ、おまえこんなゲームも持ってんのか、渋いねー」
聞いたことの無い男が私を持ち上げる。身体の感覚はないはずなのに、誰かが私を持ち上げる。
「あー、それね。一昨年にボドゲ福袋買ったら入っててさ、レビュー見ると時間かかるっていうし。ルールも複雑そうだし、世界観は好きなんだけどね」
「へー、中見ていい」
「いいよー」
その時、今まで生きてきた中で感じたことの無い感覚に襲われた。身体が分かれるというか内臓一つ一つを触られるような。
「なんかデザイン古いねー」
この人達はさっきから何をしているんだ。私の身体を触っているのか。
「お、テラフォーミングマーズもあるじゃん。やっぱりSFと言えばこっちでしょ、FLEETSって聞いたこともないもん。」
その瞬間、身体に衝撃が走り、私は全てを理解した。
私はFLEETSこと、宇宙艦隊:プレアデス戦争というボドゲに転生したことを。
何故私がそれに転生したのかは分からない。ただ一つわかることは私もそのボドゲを開封し、未プレイだということです。
男達の会話は続く。私はただその話を聞いておくことしか出来ない。
「ってか要らないなら売れば良いじゃん」
「そうなんだよね。開封しなかったらワンチャン売ったかもしれないけど、開封しちゃったし、いつか価値が上がったらそん時に売ろうと思って」
「ふーん。でもプレイしてないんでしょ、タイルも抜いてないみたいだし」
「開封しただけで価値って下がるからさ、プレミアがつくまで寝かしとくよ、え?買ってくれるの?」
「いや、いらない」
「だよねぇ」
何故だろう。悲しいのかな。胸がぎゅーっと締め付けられる。胸の感覚すらないんですけど。このゲームはテラフォーミングマーズと同じメーカーから発売されているのに。せめて自分でプレイをして判断してほしい。私はその言葉を名前も顔も知らない彼たちにではなく自分に投げかけていました。
「ってかさ、福袋に入ってる時点で投げ売りじゃね」
「いやぁ、メインのボドゲだけで元が取れてるから良いんだよ」
そうかもしれない。商売ですから。でも販売するまでには誰かの努力が必要なんだよ。会社という共同体から決済を得て、メーカーと交渉して、翻訳して、そこにはきっと儲け以外に遊ぶ人へ今までにない体験を提案をしたいという誰かの想いがあるんだと思います。
「まっ、買取が3,000円以上になったら売るかな」
「駿○屋で2,400円じゃん、あと少しだね」
「だね」
何も言えない。耳を塞ぐことも出来ない。私はこのボドゲとして朽ち果てるまで誰にも遊ばれることなく開封未プレイのボドゲとして棚の奥底に置かれるのか。私は別の開封未プレイのボドゲについて考えようとしました。しかしそこでまた意識は途絶えました。
続く。かも。
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